もしも19歳の男子大学生が水野敬也の「夢を叶えるゾウ」を読んだら

 

 

僕は、思う。

自分を変えたいと。

昨日までの自分を飛び越えて今日新しい自分に生まれ変わりたいのだと。

でも、現実は無情でしかない。

変わりたい。僕は、少なくとそう思っているし、言葉にして簡単に口に出せる。

僕は、変わりたい。成功とやらをしてみたい。

なのに、行動には結び付かない。いや、行動自体をしていない訳でもない。すぐに飽きてしまうのだ。3日坊主になることなんてざらにある。1か月続けば良いほうだ。

 

ふざけるな、現実。僕は勝ちたいんだ。何を言っているのか分からないと思うが僕は一番になってみたい。このままじゃ嫌なんだ。それじゃ、普通の人で終わってしまう。普通じゃ嫌なんだ。何がなんでもどんな分野でもいいから大きな果実をもぎ取ってみたい。

 

そんな僕だった。自分を客観視すれば、大した実績もなくただ成功を渇望を渇望している。でも、行動に移せない。行動が長続きしない。出口のない迷路にでも入り込んだ気分だった。

 

そんな時だった。僕はある本に出会った。ネットで見つけたある起業家のおすすめ本だった。水野敬也の「夢を叶えるゾウ」という本だ。

 

夢をかなえるゾウ文庫版

夢をかなえるゾウ文庫版

 

 

僕の初めて見た感想は、なんとも胡散臭い自己啓発本というイメージだった。

ふざけているのか分からないが、良くわからないゾウといぶかしいタイトル。これだけでも胡散臭い自己啓発本とレッテル付けして問題ないのではないかと思ったが、とりあえず手に取ってみた。

 

良くわからないストーリーから始まる。眠っている「僕」の枕元に変な奴がいる。ゾウのように長い鼻、鼻の付け根からのぞく2本の白い牙(片方は真ん中あたりで折れている)、ぽってりとした大きな腹を4本ある腕でさすってるこんなやつが。ガネーシャなんて名乗る変な奴。

 

それも煙草吸いながら、「覚悟はできたか」「もっと見ようや、現実を」

「自分、そんなことやから、『夢』を現実にできへんのや」なんて言ってくる。

 

ドキッとしたが、何が言いたいんや君と言い返しそうになってしまう。

面白そうやから付き合ってやってたのに、なんやこいつ。

 

だけど、なんか妙なのだ。胸騒ぎがする。僕はこの現実を夢と思っていないだろうか。いや、夢であってほしいとは思っていないだろうか。物語の言葉と自分を重ねてしまう。

 

だから、もう一度聞く

「これ以上読み進める覚悟は、できてるわな?」

 

SNSを見れば人生楽しそうにしている奴は見かけるし、飲み会でも本当に楽しいんやろうなという奴はいる。でも、なんか僕は違う。僕は、この現状に満足できない。

人は期待するほど自分を見てくれてはいないのではないだろうか。

 

僕はやってきたんだ。だから見てくれと言いたいのかもしれない。

僕の1年を振り返る。

4月くらいからタイピングの速度を速めるゲームをしてたが、小さいころからPCゲームをやっていた奴とのタイピングスピードの違いに驚き、そしてタイピングなんて極めても意味がないと諦めた。

TOEICのスコアが4月に受けたときに、220と壊滅的だったから英語サークルに入ってみたが、まず英文聞き取れないし、喋っている内容も意味不明だった。始めて1か月くらいは真剣にメモを取っていたのだが、それもさぼりがちになってしまった。夏の合宿では部屋で昼寝して一人さぼったし、最近はサークルへの熱も冷めてきてしまった。TOEICのスコア自体は400まで上がったのだが、基本的にListeningのスコアしか上がらかなかった。意味の分からない単語多すぎるし、外人と話したほうが英語能力伸びそうじゃないかと思ってしまう。サークルを続けて意味があるのかと考えて、僕は人間関係もなにもかも放り出しそうだ。放り出してyoutubeとゲーム日和。

 一念発起して、東海道をママチャリで走ってやろうかと思ったが、北千住から横浜まで行って断念した。

 

ダメだった。何もかも。僕は華やかな世界の片隅でひっそり死んでいくのだろうか。

このままじゃ普通。普通に生きるのが難しい。違うんじゃないか。普通とやらは、一番数が多くてなんとなく安心を得られるから普通でいたいだけじゃないのか。

 

なんでもする。そう言いたかった。だから変わらせてくれ。

「自分、変わりたいの変わりたくないの?どっち?」と聞かれれば、そりゃ変わりたい

 

このまま終わりたくないし、今のままじゃ駄目だ。それは分かっている。でも、変わるって口にするのは簡単なのに、実行するのがこんなにも難しい言葉はないんじゃないだろうか。

 

変わりたいと願っても少しも変わっていない。

変わりたくても変われない僕を少し嫌いになる。

しかも、それは初めてじゃない。何度も何度も変わろうとして挫折してきた。やってやると思った時はテンション上がったのに、続かなくて。むしろ、自分に自信がなくなり始めているんじゃないか。そんな気がして。変わりたいと思う。でも、変わりたいという気持ちと変われないんじゃないかという不安が襲ってきて。

 

ガネーシャは言う。「そんな不安は無用やから」と。だって、「ガネーシャ式やから」

 

「ぶっちゃけた話、自分、しょぼいやん?」「自分みたいにいつもぐだぐだして決めたことも実行できへんしょうもないヤツでも、できる感じにケアしたるから」

 

なんか、ぽかんとしてもしまう。疑っているとは言いにくいけど。

 

ガネーシャはインドの神様らしい。ニュートンに重力を教えたのも自分、それもモーツァルトピカソ孔子、ナポレオンもニーチェエジソンも。歴史上のキーパーソンは殆どガネーシャのコーチを受けたと。最近ならビル・ゲイツも受けたらしい。

 

「そんな歴史の偉人を育ててきたワシのコーチ受けられるんやから、自分みたいな小粒の人間変えのかんか簡単やがな。だいたい、自分の目指しとるところなんかたかがしれとるやろ。天下統一とか目指しとるわけやあれへんのやろ?年収倍とか、パーティー行ったらちやほやされるとか、そんなんやろ?余裕やで」

 

何がなんだかよくわからんけど、いっそのことガネーシャ式とやらに乗ってみるのも悪くはないなと思った。

 

「で、どないすんの?」

 

変われるなら変わりたい

 

「サインして」

 

「契約書やがな」「だから、さっきから何度も確認しとるやろ。『覚悟はできとるんか』っちゅうて」

 

「これはやな、今からワシの言うことを一度でも聞かんかったら、もう一生何かを夢見ることなく、今まで通りしょうもない人生をだらだら過ごして後悔したまま死んでいきます、いう誓約や。だってそうやろ?わしが教えるんは自分が変わるために一番簡単な方法やもん。それでも無理やったら、一生無理やろ。せやからな、ワシの言うこと聞かんかった場合は、自分の将来に対する『希望』をなごっそりいただくわ」

 

「ワシ、希望集めてんねん。全然モノにならんやつから『希望』集めて、筋のええ子に全部あげんねん。そないしてえこひいきしとねん。だからすごい奴ってめちゃくちゃスゴなるし、ダメな奴は徹底的にダメなんねん」

 

どうやらそれがガネーシャの趣味らしい。

 

だってすごい子がどんだけスゴなるか見てみたいやんかなぁと言い残してった。

 

恥ずかしい思いや嫌な思いをするたびに自分を変えたいと思ってきた。でも、結局一晩寝たらどうでもよくなって、何か新しいことを始めるのが面倒くさくて、まぁいっかと今日まで生きてきた。でも心のどこかで変わらなければ取り返しのつかないことになるのではと思ってきた。友達と絡んでも、もっとやらなきゃいけない大事なことがある感じがして心から楽しめなくて、「きっかけさえあれば」いつもそう思っている。まだ、そのきっかけとやらが自分にはまだ来てないだけ。でも、本当はきっかけなんて転がっていて嫌な思いや恥ずかしい思いをした時かもしれない。きっかけを、僕は素通りして生きてきた。だから、きっかけなんて来ない。

 

それがきっかけであることを決めるのは、今生きている僕なんだ。

 

ところで、「スプーンある?」

彼はヨーグルトを所望らしい。こんな変な奴についていって大丈夫なのか?

スプーンを渡してやる。

 

「おおきに」

 

ええい。こんな得体の知れなくて、得体のしれないやり方で何かを変えようとするなんて、自分で言うのもなんだが正気の沙汰ではない。こいつ、僕の味方か敵かわからないし、第一胡散臭すぎる。

 

正気じゃとてもじゃないがやってられない。

公園にでもいって奇声でも出してこようか

僕は、立ち上がった